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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3902号 判決 1949年12月19日

被告人

水尾十栄

主文

原判決を破棄する。

本件を神戸簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の理由は末尾添付の弁護人中村幸逸提出の控訴趣意書の通りである。

第一点について、

原判決が所論のように証拠の標目中「司法警察員草加保一作成の水尾通に対する第四回供述調書謄本の記載」及び「右草加保一作成の東野公一に対する第三回供述調書謄本の記載」を掲げているところから見て、これら供述調書中に録取された同人等の供述を判示事実認定の証拠として引用したものと認めるのが相当である。ところが論旨はこれら両名の警察における供述は調書作成者と同一警察署の司法巡査船越勝見の拷問、強制によるものであつて、任意性のない供述であるから之を録取した前記供述調書の謄本は証拠能力がないと言うのである。記録を調査すると、弁護人は原審の公判廷において、これら謄本を証拠とすることに同意しているけれども、証人水尾通及同東野公一は巡査から強情なやつだといつて殴られた模樣について論旨摘記のように証言し、同人等を前記供述調書作成前取調べた司法警察員草加保一の部下である司法巡査船越勝見も証人として「同人等を殴つたことはないが、髮の毛を引張つたり突く位のことはした」と供述していることが明かであるから、何れにしても右両名の警察における供述は強制によるものであつて任意性をもたず、著しく信憑力を欠くものと認めざるを得ないのである。刑事訴訟法第三百二十六條第一項は当事者が証拠とすることに同意した書面又は供述についての証拠能力を規定し「作成又は供述当時の情況を考慮し相当と認めるときに限る」と制限しているのであるから、右のように任意性のない供述はたとえ当事者が証拠とすることに同意した場合でも証拠能力のないものと言はねばならない。かように証拠能力のない司法警察員作成の供述調書謄本中の供述記載を犯罪事実認定の資料に供した原判決は採証の法則に反した違法あるもので、右の違法は原判決に影響を及ぼすものと言はねばならない。さすれば他の論旨に対する判断をするまでもなく原判決はこの点で破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七條第四百條に従い主文の通り判決する。

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